リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

「リハビリにおける高齢者の歩行訓練での注意点とは?」

はじめに

高齢化が進んでいる現代社会において、健康寿命(介護の必要なく健康な状態で過ごせる寿命)を延ばすために高齢者に対するリハビリの役割が大きくなっています。

健康寿命を延ばすために特に大切なことは歩行を中心とした移動機能を維持し、家族や友人、社会と触れ合いながら生活することです。

そのために多くの高齢者のリハビリで行われているのが「歩行訓練」で、言葉の通り歩く訓練を行います。

そこで今回は、より安全で効果的なリハビリを行うために高齢者の歩行訓練を行う際に必要な評価や注意点をまとめてみました。

 

歩行訓練とは?

先ほど歩行訓練を歩く訓練と簡単に説明しましたが、その方の身体状況や環境によって歩行訓練の内容は異なってきます。

近距離の歩行がなんとか可能であって、バランスを崩しやすい方は病院や施設にある平行棒や歩行器を利用して歩行訓練を行います。

また、もう少し歩行に安定感があり、整地された屋内であれば安全にある程度の距離を歩くことができる場合は病院内や自宅内で歩行訓練を行います。

さらに、屋内歩行が安定していて自立して外出することを目指す場合には、屋外の傾斜や段差、不整地なども含めた実践的な歩行訓練を行うこともあります。

理学療法士を中心として歩行訓練を行うセラピストはその方の筋力や体力など色々な要素を把握した上で、その方にあった場所で杖やシルバーカーなど必要な補助具を検討しながら安全に歩行訓練を行う必要があります。

 

歩行に必要な機能と動作分析

安定した歩行を行うためには必要な要素がいくつかあり、歩行訓練を行うセラピストは歩行の見守りや介助を行うだけでなく、その方の歩行を分析し、歩行機能を高めるために必要な要素があればその機能を高めることに特化した訓練を行うことも必要です。

そこで、ここでは歩行に必要な身体機能と歩行訓練においてどのような動作分析を行っていくのかをご説明します。

 

■下肢体幹筋力

歩行訓練を行うなかで多くの方が圧倒的に不足しているのが下肢体幹の筋力です。

そして、歩行を行うにあたって下肢体幹の筋肉の中でより必要とされるのが下肢の抗重力筋の筋力です。

「抗重力筋」とは、重力に逆らって立位を保持するために必要な筋肉のことで大臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋などが中心となっています。

股関節の伸展(反らす動き)に作用する大臀筋筋力が不足していると、立位の状態や歩行中に片足立ちになったときに股関節を伸ばした状態に維持することができないため、曲がった状態のまま歩くようになります。

また、膝関節の伸展(伸ばす動き)に作用する大腿四頭筋筋力が不足していると歩行中に膝ががくっと折れてしまいますので、一人で立位を保持したり歩行することができません。

足関節の底屈(つま先立ちの動き)に作用する下腿三頭筋筋力が不足していると、しっかりと地面を蹴ることができず歩行の推進力が得られなくなってしまうだけでなく、最も地面に近くバランスをとるのに大切な足首の動きをうまくコントロールできません。

このように筋力不足により歩行が困難であるように見受けられる場合は、それぞれの筋力トレーニングを並行して行うことも必要になります。

 

■バランス機能

歩行できるだけの筋力が備わっていてもバランス機能が低下してふらつくことが多く、すり足になったり、歩幅が極端に狭くなることがあります。

また、転倒の恐怖感があるためになかなか思うように歩くことができないという場合もあります。

手をどこにも触れることなく片脚立ちをしてみたり、ちょっとした外乱(ぶつかられて重心をずらされるような刺激)を加えてみてバランスが著しく崩れるようであれば、バランス機能を高めるような訓練を行う必要があります。

高齢者の場合、バランスがとりにくい原因として糖尿病やその他の末梢神経障害によって足底の感覚自体が鈍くなっている場合や、脳血管障害によって平衡感覚が低下している場合もあります。

既往を参考にすることはもちろん、バランス機能が低下している明らかな原因がないか評価を行いながらバランス改善訓練を行っていきましょう。

 

■関節可動域

先ほど、歩行を行うにあたり下肢体幹筋力が重要であることをご説明しましたが、筋力をうまく発揮できなかったり、正しい姿勢で歩けない原因として関節可動域制限がある場合があります。

特に高齢者では、変形性関節症や過去の外傷の後遺症による可動域制限を持っている方が多く、そのために歩きにくい方もおられます。

よってセラピストは歩行訓練を行う前にその方の下肢体幹の可動域がおよそどの程度確保できているのかということを把握しておくことが理想です。

長期に及ぶ関節可動域制限は可動域訓練などでは改善しないこともありますが、制限があることを知っていればその中で代償動作を使ったり歩行器や杖などの補助具を使いながらその方なりに安定した歩行を目指すことができます。

 

高齢者の歩行訓練での注意点

若年層でも外傷やなんらかの疾患による長期臥床などで歩行機能が低下した場合は、リハビリとして歩行訓練を行うことがありますが、高齢者の歩行訓練では特に注意する点がありますので、ご説明します。

 

■既往歴の把握

高齢者は、若年層に比べて様々な疾患を持っていることが多く見られます。

高血圧症や糖尿病、呼吸器疾患や心疾患などの既往がある場合には、負荷の強い歩行訓練によってそれらの疾患に悪影響を及ぼす場合があります。

本人は日常生活において自覚症状がなかったり、その疾患に長年罹患していることで自身が持っている疾患に対しての認識が甘くなってコントロールされていない場合もあります。

また、既往が多すぎたり認知症を患っている場合など自身の疾患を把握しきれていない場合もあります。

よって高齢者の歩行訓練を行う際には、既往歴の把握は特に注意し、必要がある場合には主治医に歩行訓練を行うにあたって負荷を制限する必要がないかなど確認してから行うようにしましょう。

 

■全身状態のリスク管理

先に述べた既往歴をしっかりと把握できたら、歩行訓練行うにあたって経過に注意が必要な疾患を中心に様子を観察しながら歩行訓練を行います。

高血圧症であれば歩行前後で大きな血圧変動がないか、糖尿病であれば低血糖症状がみられていないか、呼吸器疾患や心疾患であれば呼吸の様子やSpO2(酸素飽和度)が下がっていないかなどに注意する必要があります。

また、疾患に関わらず高齢者は若年者に比べて呼吸器や循環器など運動に対する対応能力が低下しているので、特に長期臥床後に歩行訓練を始めて慣れるまでは歩行時間や距離をはじめ負荷をかけすぎないように注意し、訓練による全身状態の悪化がないかしっかりと確認しながら歩行訓練を進めていく必要があります。

 

■達成可能な目標を明確にする

高齢者は歩行機能が低下してしまった直接の原因となる疾患や外傷の問題だけでなく、臥床期間や元々の体力、気力といったところでも予後が変わってきます。

もちろん、全ての方が自立歩行で屋内外とも安全に歩けるようになることがベストです。

しかし極端な話、居住スペースが1階のみの方が10階まで階段を上がったり下りたりできるようになる必要はありません。

ですから自宅での家族の介護状況や自宅の居住スペース、元々の行動範囲などを把握してその方が何ができるようになれば安心して快適に生活できるのかを考えた上で、達成可能な目標を設定することが必要です。

そして、長期目標として可能と思われる範囲でその方が叶えたい歩行機能の獲得を掲げ、その間に短期目標として段階的な目標を掲げます。

「高齢だから仕方がない」とあきらめがちな高齢者に「さあ歩きましょう」というような漠然とした言い方をするよりも、「杖でここからここまで歩けるようになれたら、自宅でも一人でトイレに行けるようになりますよ」というようにその方ができるかもしれない、是非達成したいと思えるような目標を設定して、モチベーションを高めることが大切です。

 

■転倒のリスク管理

高齢者の歩行訓練において転倒のリスク管理はとても重要な問題です。

骨が脆くなっている高齢者の場合、転倒によって脊柱の圧迫骨折、大腿骨頸部骨折など新たな骨折を作ってしまう可能性が非常に高いです。

そうなると、せっかく歩行訓練ができるまでに回復していてもまた手術をしたり長期臥床を強いられたりと歩行訓練ができない状態になってしまいます。

もちろん、若年者の歩行訓練においても転倒のリスク管理は大切ですが、特に高齢者の場合は転倒による代償が大きいので、歩行訓練を行う際にはセラピストの見守りや介助の体制、その方にあったレベルの歩行訓練を設定することに細心の注意を払う必要があります。

 

おわりに

今回は、高齢者の歩行訓練において必要な評価や注意点をご説明しました。

全身状態の管理や転倒のリスク管理など注意する点は多いですが、専門職としてその点をきちんと考慮すれば十分効果のある歩行訓練を行うことができます。

また、歩行機能が向上すればその方の人生の充実度向上にも直接貢献することができ、その一助となれるということはとてもやりがいのあることです。

今回の内容を是非参考にしていただき、一人でも多くの方が満足した生活を送れるよう歩行訓練をすすめていただければと思います。