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腰椎すべり症における大腰筋の機能解析

はじめに

腰椎すべり症は若年者によく見られる疾患の1つです。

程度が大きくなることで脊柱管が圧迫され、神経症状も見られるようになります。

また、すべり症を悪化させる要因として大腰筋の存在は無視できません。

主な作用は股関節の屈曲である大腰筋がなぜ腰椎すべり症に関与するのでしょうか。

すべり症の病態や大腰筋の走行、バイオメカニクスの視点から解説していきたいと思います。

 

腰椎すべり症の病態

文字通り、何らかの原因で腰椎が前方へ変位(滑って)いる状態を指します。一般的な症状としては腰痛に加え、滑りの程度によっては脊柱管の狭窄による神経根症状や脊髄症状を呈します。

大まかに、加齢による腰椎の変形からくる「腰椎変性すべり症」と若年者に多い腰椎分離症による骨性支持の低下に伴う不安定性によって生じる「腰椎分離すべり症」に分けられます。

すべり症に至る過程が別ではありますが呈する症状はほぼ変わりません。

 

大腰筋のバイオメカニクスから見た機能

大腰筋は第1~4腰椎横突起に起始し、腸骨筋とともに大腿骨小転子に停止します。

腸骨筋とともに腸腰筋と呼ばれ、主には股関節の屈曲に作用します。

しかし、腰椎横突起に付着しているため股関節だけでなく腰椎にも作用します。

 

大腰筋の走行は腰椎から全下方に走り、股関節前面で角度を変えて折れ曲がる形で大腿骨小転子に向けて走行します。

股関節中心の前方を通るため股関節屈筋としての作用が大きくなります。

ここで腰椎への作用を大腰筋の走行から考えてみたいと思います。

前額面からみて、起始である腰椎横突起は停止である大腿骨小転子より上部に位置しています。

矢状面から見た際、大腰筋は起始部からいったん前方へ走り、その後股関節前面で後方へ折れ曲がる形で停止しています。

以上のことから、大腰筋の走行をベクトル分解すると股関節より上位の部分では腰椎に対して下方と前方へ引っ張る力が加わることとなります。

 

そのため股関節拘縮などがあった際、停止部がさらに前方へ変位することで腰椎に対する大腰筋の前方への力が増大され、腰椎を強く前方へ引っ張ることとなります。

以上のことから、腰椎すべり症を持つ患者にとって大腰筋の緊張や張力はすべり症を増悪させる因子となりえます。

 

大腰筋へのアプローチはどうすべき?

TVなどでは簡単に大腰筋を鍛えよう!などとうたっているものを散見します。

確かに、腰椎を下方に引っ張る大腰筋の出力が高くなれば腰椎の安定性は増すでしょう。

しかし、すべり症患者に対して大腰筋の収縮を促すことはどうでしょうか?

大腰筋には上述した通り腰椎を下方だけでなく、前方へも引っ張るストレスを与えてしまいます。

そのため、安易な大腰筋の収縮は腰椎すべり症者にとってはリスクと言わざるを得ません。

また、ストレッチも同様のことが言えます。

若年者の腰椎分離すべり症では股関節屈曲拘縮を伴っていることが少なくありません。

これらの患者に対し、股関節が屈曲位であるからといって股関節伸展ストレッチを行えば大腰筋に伸長ストレスが生じ、伸張反射による大腰筋の緊張が高まる可能性があります。

これらのことから、大腰筋の筋長が変化するようなアプローチは避けるべきです。

大腰筋への直接のアプローチであればダイレクトストレッチを選択すべきです。

大腰筋は腹直筋の側方から腹部へ押し込むことで触診することができます。

内臓系のリスクがない患者であれば腹部から大腰筋へダイレクトストレッチを行うことで大腰筋の緊張を緩めることができます。

 

また、股関節の屈曲拘縮が生じる理由から考えてみましょう。

股関節屈曲位はいわゆる閉まりの姿位であり、股関節としては安定している状態です。

ではなぜ股関節を安定化させる必要性があったのでしょうか?

様々な理由があると思いますが分離症や腰椎の変性により腰椎の安定性が低下していることは一つの要因として考えられます。

腰椎を安定させるために大腰筋の緊張が生じ、大腰筋の筋長によって股関節屈曲位となっている可能性はあります。

そのため、腰椎の安定性を高める腹横筋や多裂筋の収縮を促すことで大腰筋の緊張が落ちることもあります。

 

まとめ

分離症患者に対しては大腰筋へのストレッチを推奨するセラピストも散見されます。

しかし伸長ストレスによって腰椎をさらに前方へ変位させるリスクが非常に高くなります。

バイオメカニクス的観点からリスクのない大腰筋へのアプローチを考えてもらいたいと思います。

 

参考文献

バイオメカニズム学会誌 生体力学モデルによる大腰筋の機能解析 名倉武雄 他

エルゼビアジャパン:理学療法のクリティカルパス 下肢 David C.Saidoff