リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

片麻痺の改善に理学療法士ができること

はじめに

脳血管疾患によって意識障害、運動麻痺、感覚障害、言語障害や認知・記憶・遂行障害などの高次脳機能障害、嚥下障害などのさまざまな症状がみられ、日常生活活動の制限や生活の質の低下に直結することになります。そのため脳血管疾患のリハビリテーションの位置づけは極めて重要でありますが、リハビリの介入方法については様々な理論や方法が存在します。そのため、何から勉強したらいいのかわからないという若いセラピストも多いかと思います。
今回は「片麻痺の改善に理学療法士ができること」と題し、片麻痺という運動障害の改善を「運動学習」という側面からまとめ、それらの知識を臨床に応用していくアイデアを示していきます。なお「運動学習理論」の詳細については成書を参考して頂きたいと思います。

 

運動麻痺について

脳血管疾患により皮質脊髄路(背外側系)、皮質網様体脊髄路(腹内側系)の経路に損傷が起こると、四肢の痙性麻痺・弛緩性麻痺・共同運動や予測的制御機構・応答的制御機構の障害が起こります。背外側系障害は四肢遠位筋の運動障害、腹内側系障害は四肢近位・頸部・体幹の抗重力姿勢筋の障害と大まかに分けられます。

 

背外側系・腹内側系の障害の特徴

背外側系の問題は表面化されやすく、臨床ではいわゆる「麻痺」として捉えられやすいです。一方、腹内側系の問題は動作を行う前の姿勢制御に関わるものです。例えばリーチ動作をしようとした時に、腕を伸ばす前にその土台となる肩甲帯や体幹を支持する上肢近位の筋群・体幹筋が先行して働くことによってリーチ動作を達成することができます。この姿勢保持を保障する不随意制御のシステムを先行随伴性姿勢調節といいます。
腹内側系に問題があると、運動の土台となる部分の支持性に問題があるため、目的とする動作を遂行できなかったり、必要以上に四肢の筋緊張を上げて動作を行ったり、他の部位に固定をつくり動作を行うような非効率な運動パターンを呈します。これらの問題は一見すると背外側系の問題と捉えられがちです。ですが、本質的には制御している経路が別なので分けて考える必要があります。

 

麻痺の改善と運動学習

経路別の運動麻痺について述べましたが、では「麻痺が改善する」ということはどういうことなのでしょうか。それは一連の動作の中で、運動麻痺によって引き起こされていた空間的・時間的なズレが最小限になり、スムーズに目的を達成できるようになる、すなわち動作の効率性が改善することが運動麻痺の改善と言えるはずです。

 

シナジーとエングラム

この動作の効率性を決定する重要な因子の1つにシナジーとエングラムという概念があります。中枢神経は、随意運動において作用の似たいくつかの筋群が共同して働くシナジーを利用しているといわれています。このシナジーは複雑な筋骨格系を制御しやすくはしていますが、ある動作1つ取り出してみても、その運動に関わる関節の動きには無数の組み合わせがあり、多関節の多様な運動制御を瞬時に行うことはできません。そこでエングラムという、抽象的な運動の形の記憶が脳内に蓄えられているという概念が生まれました。シナジーの元になる運動プランのようなものです。このエングラムの強化をすることによって、運動の協調が可能になるという考え方です。

 

運動学習への応用

そしてエングラムの強化には、数多くの運動の繰り返しが必要です。そしていったんエングラムが確立されれば、複雑な随意運動が協調性をもって実行されることになります。そのため、麻痺の改善には運動学習の考え方が必要となってきます。

 

運動学習を進めていくには

運動課題の設定

まず運動学習を進めていく上で重要なのは、対象者が主体的な運動行動をするための動機づけを高めることです。そのためには、運動課題の難易度と達成感が必要になってきます。
ある動作の獲得を目標とした場合、それを達成する過程において達成可能なスモールステップの運動課題を設定することが大切になってきます。この際の課題難易度は、セラピストの援助や物理的介助がなされると遂行しやすくなる程度、または自力で行うにしても失敗や成功が混ざるような難易度といわれています。少しづつ目標に近づくような課題を達成していくことで対象者の動機づけにつながります。

 

運動学習の強化(報酬系)

そして課題を達成していく過程で、行動をおこす時に期待される報酬の量(予測報酬量)と、行動の結果として実際に得られた報酬の量(実際報酬量)との誤差に応じて運動学習が強化されていきます。報酬自体で運動学習が強化されるのではなく、予測と結果の誤差に反応します。そのためこの誤差修正がとても大事になってきます。この予測にはこれから行う運動のイメージをしたり、目的動作を上手く行っている人の動作を観察して運動イメージを作ったりすることも含まれます。誤差修正を経て最適化された運動プログラムが残り、フィードフォワード制御にも役立てられることになります。

 

学習された不使用

運動学習の過程で注意が必要なことは、「学習性不使用」と呼ばれるものです。運動学習の負の面で、麻痺した手足を使用しないことを学んでしまうことです。これは脳の損傷により、麻痺側患肢の運動量が減少してしまうことや運動の失敗経験、痛み、抑うつ、代償的な健肢の運動パターンの成功体験によって強化されてしまいます。例えば、動作の中で代償的な運動パターンを繰り返されることによって、痙性麻痺や非効率な運動パターンが強化されるといったことが挙げられます。

 

運動麻痺の改善に理学療法士ができること

ここまでは運動学習が運動麻痺の改善に寄与するということ、また運動学習の強化に必要な考え方について述べてきました。ここからは、実際に運動学習を応用した介入方法にはどのようなものがあるかをまとめていきます。

 

トップダウン的アプローチ

このアプローチは、運動を始める前の段階での介入方法になります。これは運動学習の強化の部分で述べた運動イメージや運動観察にあたり、いわば脳のシステムに直接働きかけるアプローチになります。実運動に至る前に運動や感覚予測を対象者に行わせ、その後実運動を実施し、予測と実際の運動の誤差をフィードバックさせるものになります。他にも運動錯覚(ミラーセラピー)やヴァーチャルリアリティを応用した手法もこれに含まれます。

 

ボトムアップ的アプローチ

一方、こちらのアプローチは、筋骨格系または末梢受容器などの身体システムを作動させることで、感覚運動に関わる脳内システムに働きかける介入方法になります。(エングラムやシナジーの強化に関連するものです。)これには課題指向型練習、ハンドリング、装具療法、CI療法、バイオフィードバック(FES)、促通反復療法、ロボット療法が代表的なものとして挙げられます。
実際の臨床では、脳画像の解釈、対象者の訴え、動作や姿勢観察、触診などを手がかりに、トップダウン、ボトムアップ双方のアプローチを組み合わせながら介入していくことになります。

 

まとめ

冒頭でも述べましたが、いまや脳血管疾患のリハビリに限らず、他分野でも様々な介入方法が溢れかえっています。それ自体は決して悪いことではないと思いますが、医学的な根拠が示されている方法でリハビリは提供されるべきだと思います。挙げさせていただいた各アプローチ方法はガイドラインに掲載されており、きちんとした根拠がある方法論になります。本記事を通して、運動学習の考え方を生かして脳血管疾患のリハビリを展開していく上で、自分が行っているアプローチやこれから身に付けたいと思っているアプローチにはどんな意味があるのか(運動学習においてどのような位置づけなのか)を理解することにつながれば幸いです。


参考資料 脳卒中 理学療法診療ガイドライン